1.はじめに
共同相続人の相続分の計算は、通常、被相続人が相続開始時に所有していた相続財産の価額に各相続人の相続分(指定相続分又は法定相続分)を乗ずることによります。しかし、相続開始前に多額の贈与を受けていた人がいたと仮定するとどうでしょうか。生前贈与によって相続開始時には既に相続財産がかなり減少して、ある一人の相続人に財産が渡されていたとしたらどうでしょうか。生前に贈与を受けた上に、さらに法定相続分に応じて相続を受ける人がいるとしたら、相続が争族になる可能性はかなり高いと言ってよいでしょう。
2.特別受益者
このような不公平感の原因ともなる生前贈与を受けた者を特別受益者と言います。そして、民法では特別受益者の相続分を規定しています。つまり、受益した部分を遺産に持戻して各相続人の相続分を計算することになるのです。
3.特別受益者の相続分限度
特別受益がある場合の相続分の価額の計算は、持戻し後の遺産額に相続分を乗じます。その上で、この相続分価額から特別受益の価額を控除した残額を特別受益者の相続分とします。この結果、特別受益の価額が相続分の価額を超える場合、特別受益額を限度とし、それを超える相続財産を取得することはできません。それでは、超える部分はどうなるのでしょうか。それは、返還する必要はないとされていますし、仮に返還を求められても、相続を放棄すればよいだけのことですから、いずれにしても、特別受益の返還ということは起きないわけです。
4.被相続人の意思表示
もし、被相続人が生前又は遺言で特別受益者に持戻しの必要はない旨の意思表示をしていたときは、その意思に従うこととなっています。そのため、事業承継の際に株式の大部分を一人の事業承継者に贈与する場合などは、この意思表示を行っておく必要があります。
5.配偶者居住権
平成30年の民法改正により、新たに「配偶者の居住の権利」の章が創設されたことに伴い、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の遺贈又は贈与がなされたときは、持戻し免除の意思表示があったものと推定することとされました。そのため、配偶者の権利がかなり擁護されていると言ってよいと思います。
6.生命保険金や死亡退職金
特別受益と関連して生命保険金や死亡退職金の取り扱いについて説明します。
被相続人が自ら被保険者となり保険料を負担して、特定の相続人を受取人としていた場合、被相続人死亡後に受け取る保険金は受取人固有の財産とされています。また、死亡退職金は労働協約によって受け取った受給者固有の財産とされています。
それぞれ遺産分割の対象となる相続財産ではありませんが、遺産分割や遺留分の計算に際しては、これらを持ち戻して計算することが通説とされています。
被相続人が自ら被保険者となり保険料を負担して、特定の相続人を受取人としていた場合、被相続人死亡後に受け取る保険金は受取人固有の財産とされています。また、死亡退職金は労働協約によって受け取った受給者固有の財産とされています。
それぞれ遺産分割の対象となる相続財産ではありませんが、遺産分割や遺留分の計算に際しては、これらを持ち戻して計算することが通説とされています。